真夏の夜の夢[8]
「あれ、ユー姉はミサキと一緒にお風呂入らないの?」
しばらく二人でサッカーのハイライトシーンを見ていたが、ふざけたコマーシャルが映るとマサルは話し始めた。
確かにいつもミサキと入る私が今ここにいるのは少し不自然だったのかもしれない。
「今日はサッカーを見たかったの」、私は懲りずにまた下手な嘘をついてしまった。マサルも不思議がってこちらを
振り向く。
「ユー姉、サッカーに興味あったっけ?」、マサルは疑っていると言うよりも、むしろ私をからかうようにニヤっと
して言った。本当に小学生の低学年を思わせる笑みだった。口の両脇からはいたずらっぽい八重歯が見え、眼をクリ
クリさせている。こいつはしゃべらなければかわいい弟だ、なんて思う。タオルが床に落ちたがそれを気にする様子
はない。私は咄嗟にオレンジジュースを飲みほしたせいで喉にオレンジ特有の苦みを感じる。私が飲み干してどうす
るんだか。しかし、マサルもそれにつられたのかテーブルのジュースに気が付きそれに手を伸ばす。
「あれ、これ飲んでいいの?」
「さっきミサキが入れってったでしょ? ほらさっさと飲んで寝ちゃいなさい」
マサルはそのグラスを手に取り、再びテレビの方を向いた。私からはマサルの小さな後ろ姿しか
見えない。肩まで少し日焼けしていたが、背中は真っ白だった。髪から垂れる水滴が背中をつたい、
そのきめの細かい肌で弾くように流れ落ちる。テレビからは番組のエンディングが聞こえていた。
その音は私の鼓動にかき消されそうなほど微かに、私たちの沈黙の間を埋めている。マサルの右肘
が持ち上がり、頭が上がる。そしてうなずくようにまた元に戻る。飲んだ……、ついに飲んだ。
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