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有名人官能小説 石原さとみ

薄暗い階段を駆け登り部屋のドアを開けると、オレンジ色の光が眼
に差し込んだ。光を手の平で遮りカーテンを閉めると、中島夏彦は
バッグを学習机の傍らに投げ捨てた。この季節は西日が厳しいため、
朝からカーテンは閉ざしてあったはずだ。
ママが掃除に入ったに違いない。
夏彦は舌打ちした。
だがいつもと違う、いや、いつもと同じと言うべきか。
脱ぎ散らかしたパジャマもそのままで、昨晩性処理をしたティッシ
ュもグラビア雑誌の隣で畳の上に転がっている。ゴミ箱に捨てたマ
マにナイショの0点のテスト用紙も無事のようだった。
ただ、この古い空き箱のような部屋の片隅に、見慣れない奇妙な物
体の存在があった。背丈は130センチもあるだろうか、それは巨
大な貯金箱のようなダルマの置物。金属で出来ているだろうその物
体は、カーテン越しの西日を浴びて部分的に鋭い光線を放っている。
夏彦は近づき、その置物をまじまじと見つめた。
―――なんだこりゃあ。
ブルーメタリックのダルマ人形。
しかしダルマにしても妙である。
胴体には太くて丸い手足のようなものが付いていて、あぐらをかい
ているように見えるのだ。そして鼻はまるでピエロのように真っ赤
で丸く、その脇には鉛筆の芯のようなヒゲが左右に三本ずつ放射線
状に開いている。また、両目ともに墨が入っていることからしても
やはりダルマではないのだろう。
じゃあ、タヌキか。
夏彦はタヌキ人形の前に座り込み、推理を巡らせた。
プレゼント?パパか―――、とも思ったがクリスマスじゃあるまい
し、そんなことしないだろう。だいたいそこまで気の利くパパでは
ない。
なら、ママか。昨日マンガ本が欲しくてママに泣きついたのを思い
出した。結局ママに普段のムダ使いを叱られるだけの徒労に終わっ
たのだが。なるほどママが用意した貯金箱か。確かに腹の部分にお
金が入るような差込口があることに夏彦はあいまいに納得した。

「やあ、おかえり夏彦クン」

聞き覚えのないしゃがれた声が自分の名前を呼んだことに、夏彦は
辺りをぐるり見渡した。
しかしこの狭い四畳半の部屋に自分以外の人間がいるはずもない。
ラジオがついているわけでもないし、テレビなど初めからこの部屋
にはなかった。

「まったく、どこ見てンのさ」

その声には金属的な響きが混じっていて、ある予感が夏彦の視線を
タヌキ人形へと向かわせた。

「おまえか……?」
夏彦は恐る恐るタヌキ人形に問いかけた。
傍から見れば奇妙な光景であろうが、この声の主はタヌキ人形以外
には考えにくい。
「まったく、キミは本当にダメなヤツだな」
声というよりは、電子音の集合体とでもいうべき音声。ダルマ人形
の洗面器でも入りそうな大きな口が、パカリパカリと声に合わせ開
いている。
間違いなくこのタヌキ人形からの声だ。
「話せるのか……?」
驚きに身を乗り出した。
「今、現に話してるじゃないか、やっぱりキミはダメなヤツだ」
人形のもっともな答えに夏彦は口を結んだ。
「いいかい、よく聞いて夏彦クン。キミこれから不幸な人生を送る
ンだ。とンでもない女と結婚して、とンでもない人生を送る。なぜ
ならキミは本当にダメなヤツだからだ」
なに言ってるんだ。夏彦は口をつぐんだまま憮然とダルマ人形の話
を聞いていた。
大学生の夏彦にそんな話をしたところで真実味があるわけではない
し、突然現れたダルマに「ダメなヤツだ」と連呼されて気分がいい
わけがない。
「だいたいお前、なんなんだよ」
夏彦の声には怒気を含んでいたが、タヌキ人形はうろたえた様子も
ない。畳を握りこぶしで叩く。ドンっという音が妙に物悲しく響い
た。人形と喧嘩するなんて、まともではない。どうかしている。
ダルマ人形は夏彦の様子にただ呆れた様子で、大袈裟なため息をひ
とつついた。
「ボクは、二十二世紀の未来からきたネコ型ロボットさ、名前はま
だない」
バカバカしい―――。
と思ったが、なんとなくどこかで聞いたことのある話だ。
「まさか」
そうだこの話、藤子不二男の代表作「ドラえもん」だ。
夏彦の目は興奮に見開かれた。確かによくみると、金属的な質感は
ともかくフォルムはドラえもんそのもの。電子音が生み出すしゃが
れた声も、鋼鉄のひげも、郵便ポストのようなポケットもドラえ
もんといわれればそう見える。
「お前まさか、ドラえもん、ド、ドラえもんなのか」
夏彦はダルマ人形に詰め寄った。ボディーの肩に当たる部分をゆす
り、興奮した様子で問い詰めた。
ダルマ人形はそんな夏彦をよそに静かに首を横にふり、またひとつ
大きなため息をついた。
「本当にキミはダメなヤツだな、不幸な未来になるのも納得がいく
よ」
そう言ったダルマ人形は伏し目がちにこう言った。
「名前はまだない、って言ったじゃないか―――」
ダルマ人形の浮かべた悲しげな表情に、夏彦の部屋にしばらくの静
寂が訪れた。

「ボクはキミを助けにきたンだ」
ダルマ人形が重々しく口を開いた。
「助けに……? なぜ?どうやって?」
「キミが不幸になったのは、さっきも言ったけどとんでもない女と
結婚したからさ、だからボクがその未来を変える」
「じゃあ、僕をしずかちゃんと結婚させようと?」
「キミはバカだ」
ダルマ人形が吐き捨てるように言った。
「だいたい誰なンだ、シズカちゃんって」
ダルマ人形は夏彦を跳ね飛ばすと、おもむろに丸い手をポケットに
入れた。
夏彦の眉があがった。
これはダメなのび太にあきれたドラえもんが、見かねて未来の道具
を出すパターンだ。
―――マイルドナイン。
タヌキ人形の発した声とともにポケットに差し込まれた手が掴んで
きたのは、もとい、手にくっついてきたのは、まるでタバコのよう
な箱型のもの。タヌキ人形は、箱からさらにスティック状のものを
取り出すと、洗面器でも入ろうかという口に咥え、先端に火をつけ
た。タヌキ人形の口からもうもうと煙があがる。
「それは―――、タバコかい?」
「コレはエネルギー着火剤さ。キミのバカさ加減に少々疲れたンだ」
そう言いながら紫煙を燻らせた。
「いいかい夏彦クン、ココからが本題だ。キミはイイ女と結婚しな
くてはならないンだ、未来を変えるために―――」
すこしはキミも生身の女の子との会話を楽しんでみたらいい、そこ
からはじめよう。
タヌキ人形はそう言うと、おもむろに丸い手をポケットに差し込ん
だ。
―――もしもボックス
タヌキ人形が叫んだ。“もしもボックス”という未来の道具は、ポケ
ットの四次元世界から現実世界に吸い込まれたように、凝縮された
形から見事な膨張を見せその姿をあらわした。
まさに形は公衆電話。街角でみるありふれた緑色の電話であった。
「いいかい、この道具はもうひとつ現実が作れるンだ、それもキミ
の望んだ世界を」
「僕の望んだ世界だって?」
「そうさ、でもそれはこの現実とは違う世界、もうひとつの未来さ。
よってキミがどんな世界をつくり、キミがどんなバカな行動をしよ
うとこの現実に影響はない」
いっこうに収まらないタヌキの言い草に、夏彦は沸々と湧き上がる
怒りを抑えつつ尋ねた。
「願いを叶えてくれるのかい」
「あるいはそうかもしれないが―――、バカなキミに説明するのは
骨が折れる。まずはやってみたらいい。たとえば―――」
そういうとタヌキ人形は、畳の上に開いたままの状態で置いてある
グラビア雑誌を手に取った。その手にとった雑誌の、開いてあると
ころを夏彦につきだし、言葉を続けた。
「たとえばだ。この部屋に来たのがボクではなくて、この石原さと
みだったら、キミはうれしいかい?」
もちろんだ。
夏彦はブラウン管に見る石原さとみに心焦がしていた。部屋に転が
る雑誌もほとんどが石原さとみ目当てで買ったものである。両の手
の平を宙に踊らせ、あれやこれやと説明を加えてその喜びを表現し
た。
「じゃあ、受話器を取りたまえ。そして告げればいい。キミの望む
世界を」
受話器を差し出された受話器を手に取ったが、その重さも、硬化プ
ラスチックのツルリとした感触も、どこにでもあるものでとても特
別な力があるようには思えない。
「いいかい、もとの世界に戻りたい時は同じように、“元の世界に戻
してくれ”と叫ぶんだ。そうすればもとの世界に戻れる」
「もしも―――、もしも、この部屋に来たのがタヌキ人形じゃなく
て―――、石原さとみだったら―――」
夏彦は声高々に叫んだ。
「タ、タヌキだって? キミはなんてひどいコトを―――」
蒸気を頭から噴出したタヌキ人形が、夏彦に飛び掛ろうかという寸
前、空間がグニャリとゆがみ、ほんのわずか時間が止まった。
体が一瞬ふわりと浮いた。飛び掛るタヌキ人形の顔がゆがみ、膨張
しそしてゆっくりと収束する。あたかも空間のねじれに吸い込まれ
ていくように。壁や机も同様に湾曲し、そして同じように吸い込ま
れていった。
夏彦は、身の回りすべてが吸い込まれていく上下の感覚を失った状
態で、必死に取れるはずもないバランスを取っている。バタつく夏
彦の耳に、風船が割れるような鋭い破裂音が飛び込んできた。その
破裂音に合わせ、強烈な光で辺りが包まれる。まるで真っ暗のトン
ネルをくぐり抜け、真夏の光を直接受けたような。夏彦は手で顔を
覆いながら、ううっとうめいた。
うめくのも束の間で、急に重力を受けた夏彦はドスンと尻から落ちた。

いてぇ。
尻をさすりながら体を起こすと、クスクスと笑う声が聞こえた。
「おかえりなさい。夏彦さん」
部屋の片隅にたたずむのは、真っ白なブラウスに身を包んだ女子高
生。そのたくわえた笑顔は鋭い西日も柔らかい光に変えてしまうほ
どの力を持っている。そして白いブラウスに空色のネクタイのコン
ストラストは、彼女をより清潔に見せていた。
その彼女、夏彦が望んだ世界の住人。石原さとみであった。
印象的な一本筋の通った太い眉は意志の強さを感じさせたが、柔和
な口元がさとみ本来の柔らかさを表現している。自分の部屋に石原
さとみがたたずむ風景。それはタヌキ人形が現れた違和感よりも夏
彦にとってははるかに異質に思えた。
その石原さとみが、畳に足を引きずるように、楽しげに夏彦に詰め
寄ってくる。
「ねぇ、夏彦さん」
さとみは夏彦の傍らに位置取ると、んっ、とつぐんだ唇を突き上げ
た。
あこがれの石原さとみが自分の部屋に現れたことですでに夏彦の頭
は混乱しているのだ。「目を閉じた方がやりやすい?」
このさとみの言葉がさらに夏彦の頭を困惑させた。
どういうことだ―――。
夏彦は戸惑った。
さとみは同年代のアイドルの中でも極めて純潔の風合いを秘めた女
性だと思っていた。まっすぐにのびた黒髪も、まだ幼さを残すふっ
くらとした頬もその象徴だったはずだ。ましてやこのように男に擦
り寄る女ではない。
“―――キミは本当にどうしようもないヤツだ”
戸惑う夏彦の脳の中に、タヌキ人形の声が響いた。まるで高性能の
通信機を頭の中に埋め込まれたように頭蓋骨を反響する。そのクリ
アな音質が錯覚でないことを夏彦に教えた。
“なにをしてるンだ。もしもボックスでキミは願ったンだ、部屋に
現れたのがこのボクじゃなく石原さとみだったらって”
―――そうだ、その通りだ、なのに何故。
“もしもボックスの条件入力は声だけじゃないンだ、足りない条件
をキミの深層心理まで読み取り、テーマに付随した意識を反映する。
もういちど言う。キミは願ったンだ。現れたのはボクじゃなく、夏
彦クンを想う夏彦クンの思い描くとおりの石原さとみだったら――
―と”
夏彦はさとみの両肩をつかんだ。その手が震えた。震えているのを
さとみに察せられただろうか。だがそんなことに気を取られている
場合ではなかった。さとみの唇はキュッと閉じて夏彦を今かと待ち
焦がれているのだ。夏彦は唇を固め、さとみの唇にぶつけるように
重ねた。
ファーストキス。夏彦は我ながら不器用なキスだと思った。
さとみが「うれしい」と言って見せた笑顔には微塵のいやらしさも
感じない。まるで一陣の春風が澱んだ空気を洗い流してくれたよう
な、そんな気分にさせてくれる。さとみは、やはり自分が想うよう
に―――、無垢であった。
さとみが夏彦のひざに擦り寄った。フワリと清潔な白い香りが夏彦
の鼻腔をくすぐった。ひざの上で、はにかむ様子が可愛らしい。夏
彦の心臓が高く鳴った。
夏彦は、どうしていいのか分からず、まるで小動物を愛でるように
夢中でさとみの背中を撫でた。
ただ、小動物を撫でているのではない、同年代の肌はじける乙女の
身体を撫でているのだ。その夢に見た柔らかな感触と、ほのかな甘
酸っぱい香りに、夏彦は自分のペニスに勢いよく血流が流れ込むの
を感じていた。
狭い部屋にさとみと二人きり。押し倒すのは簡単なような気がした。
しかし、思うのは簡単であっても、実際に思い切った態度の取れる
夏彦ではない。そのことは夏彦自身よく理解している。
そしてタヌキ人形に言われるまでもなく夏彦は理解していた。この
世界は、もうひとつの未来であって自分の妄想ではないということ
を。ここで何をやっても現実には影響はない。たしかにタヌキ人形
はそう言った。しかしこの世界から続く未来はどうなる。もし仮に
レイプという形で想いを遂げてしまったなら―――。
夏彦に向けるさとみの笑みはセックスを感じさせるものではなかっ
た。純粋に夏彦と恋愛ごっこを楽しみたい、そんな笑顔である。そ
んな少女が押し倒すようなセックスに応じるだろうか。
しかしそれに反して薄手のブラウスから覗く下着の線が、夏彦のペ
ニスにさらなる活力を与えていた。
「あれ、これなに?」
パンツがはちきれんばかりの成長を見せたペニスが、さとみの目に
入らないわけがなかった。
「ちょっとみせてよ」
さとみが隠したおもちゃを奪い取るように夏彦にじゃれてくる。
ベルトが外れ、ジッパーも下がった。途中、膨張した股間のジッパ
ーに手間取る場面もあったが、夏彦のペニスはいきり立ったままの
状態でさとみの目の前に晒された。
「おこってるみたい」
青筋の立ったペニスへの、さとみなりの印象なのだろう。悪びれる
でもなく陰茎を持ちしげしげと観察する姿は、やはり無垢な女を思
わせる。時折ちらりとこちらを見やるしぐさも可憐であった。
ペニスの先端をきれいな指先がつぃっと滑った。
「こんなの出てきた」
ひらりと手を返すと透明な液がさとみの指を汚していた。なにかし
ら?といった様子で付着した粘液を見せつけるさとみに、夏彦は「わ
からない」と言った。さとみの指は茎を撫であげ、軽く握ると「あ
ったかいね」と微笑んだ。先端からはやはり液体が漏れ出していて、
それをさとみは指先で遊んだ。しばらくそうしていると指先で先端
をいじると液体が溢れ出すことをさとみは理解したようで、蜘蛛の
糸よりも細い透明の糸を引きながら嬉々とするさとみは最高に可愛
かった。
夏彦は快感で薄らぐ意識の中、整った楕円の爪がきれいだな、とぼ
んやり眺めていた。
「ちょっといい?」
さとみを動かせたのは乳児の本能だろうか。無垢もここまで来ると
―――度が過ぎている。さとみは頭を動かすと、先端を口にくわえ
込んだ。舌で粘液を舐め取とろうとしているのか。舌先の与える柔
らかい感触に夏彦は身を震わせた。さとみの舌は先端を包み、割れ
目を丹念になぞった。
ふっくらとした唇の奥で、ビクビクと脈打つ夏彦のペニスからは透
明の液体が枯渇をしらず溢れているはずであった。
黒髪の頭を揺らせ、かぶりついたさとみが、ちゅう、と吸った。
「かはっ」
我慢していた夏彦も堪らず息を吐いた。
我慢していた夏彦も堪らず息を吐いた。
さとみは、そんな夏彦の反応もよそに、夢中で透明の粘液と格闘し
ていた。舌で舐め取り、吸い上げた。楽しげに上目使いに夏彦を
見るさとみの唇は笑っている。夏彦の反応が楽しいというよりも、
舐める、含む、吸う、とった行為が乳児の本能の欲求を満たすのか
もしれない。髪を掻きあげるしぐさや、振る舞いは歳相応のもので
あった。ただ極端に男性に無垢であるということが、さとみに今の
行動をとらせている。
たまらない愛しさに、さとみの頭を掴んだ。さらり黒髪が夏彦の指
をくすぐり、流れていく。混沌とする意識の中、さとみの乳房や性
器に手を伸ばさなかったのは、夏彦のわずかに残った理性なのかも
しれない。
スカートの乱れを直しながら、さとみがまた、ちゅう―――、と吸
った。
「うぅ」
突き上げる快感が、夏彦を低くうめかせた。
スカートの乱れさえも気にするさとみが、異常なほど男性に無知で
あるのが不思議でならない。
濡れた唇がカリを刺激し、昇りつめる快感に拍車がかかる。
―――でる。
夏彦に是非が問われた。
性欲でも愛欲でもない、ただ純粋にペニスにしやぶりつくさとみの
口の中に射精していいものか。とても我慢なんて選択肢が取れる状
態ではない。
ペニスにむしゃぶりつくさとみの映像が、猛烈に夏彦の感情を掻き
たてた。どうしようもなく込み上げて、我慢してもしきれない快感
が―――、ついにペニスから放たれた。
「きゃ」
さとみが短く悲鳴をあげた。
見ずともなにが起こったのかは、夏彦の股間でいまだ激しく躍動す
るペニスを見ればわかる。
「白いのがいっぱいでたの」
それは小さい声だったが、さとみは突然のことに驚きを隠せないよ
うすであった。
夏彦は顔を上げ、さとみを見た。
昨晩の自慰行為のせいで少量ではあったが、白い液体がさとみの口
を汚すだけでは開き足らず頬まで付着していた。黒髪にもぶら下が
り糸を引いている。よく見るとチェックのスカートにまで飛び散り、
そうなるとブラウスにも飛沫が飛んでいるはずであった。
さとみは驚いた様子から一変、目に涙を浮かべていた。
「ごめんなさい、へんなことになっちゃって、ごめんなさい」
さとみは付着した精液をぬぐいもせず、涙しながら夏彦に謝った。
「夏彦さんの、こわしちゃった」
泣き叫ぶさとみは、精液がどのようなものなのかわかっていないの
だ。それどころか大変なことをしてしまったような気になっている
のだろう。
「だいじょうぶ、痛くないんだよ」
さとみを胸に抱き寄せ、そう言うしかなかった。今のさとみに精液
のことや、フェラチオの存在などを言ったところで理解できるはず
もない。たとえ理解出来たとしても、さとみがより大きな傷を追う
だけなのはわかりきっている。
夏彦はうまく取り繕うことのできない口下手な自分を呪った。

さとみが泣き止むのを待って、夏彦はトイレだと言って部屋を出た。
自分のいない部屋で独りさとみはどうしているだろう。もうティッ
シュで精液を落としているだろうか、それともまた泣いているのか。
夏彦の心が締めつけられた。
夏彦は薄暗い階段を降りながら、誰に言うでもなくこう呟いた。

―――元の世界に戻してくれ。

再び薄暗い階段を昇り、ドアの前に立った。
いつもなら躊躇なく捻るドアノブも今回ばかりはためらわれた。
どうしてもドアの向こうに、精液を拭い取るさとみの姿が連想され
て仕方がない。
でも言ったはずだ。元の世界に戻してくれ―――と。
元の世界に戻っているに違いない。ドアを開けてそこにいるのはあ
の口汚いタヌキ人形でもいい。さとみでなければそれで良かった。
夏彦は思い切ってドアノブを捻った。
やはり、というべきかタヌキ人形があぐらをかいている。
タヌキ人形は、ちらり夏彦を見ると、また元の位置へと向き直った。
たが、今までの大きな態度とは裏腹に、なにをしているでもなくそ
の場で宙空を見つめている。もしや目を開けた瞑想でもしているの
だろうか。金属製というのもはなんとも判りにくいもので、表情が
まるでつかめない。
夏彦も少し離れたところに腰を下ろした。
「やあ、夏彦クン」
こちらを見るでもなく、呟くように言った。
「どうしたんだい。電池でも切れたの?」
「ボクは電池なんかで動いていないっ」
夏彦の冗談にタヌキ人形はおもむろに立ち上がったが、またしゃが
みこみ元の位置へと向き直ってしまった。
夏彦の目から見てもタヌキ人形が普通ではないのが見て取れた。
「恋ってつらいンだね」
タヌキ人形が漏らした言葉に、ロボットも感傷的になるんだな、と
夏彦は妙に感心した。
夕暮れが、そんな二人の部屋をオレンジ色に染めていた。
「さとみとのこと―――、覗いていたのかい?」夏彦は聞いた。
「―――しかし、キミはやさしすぎる」
夏彦がため息をつくと、つられてタヌキ人形も大きなため息をつい
た。
「おっと、いけない」
タヌキ人形が慌てた様子で、口を丸い手でぬぐった。
口からオイルでも漏れたか?未来のロボットって言っても、意外と
雑な作りなんだな。
夏彦が見やると、口をぬぐう丸い手には、見覚えのある―――白い
液体が糸を引いていた。

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