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不安心理2

依然としてあの男から妻への連絡や接触は無い。
どうやら完全に妻のことは諦めたようだ、もっとも、このまま俺が何もしなければ、ほとぼりがさめた頃に再び接触してくる可能性は捨てきれないが。
妻は日に日に目に見えて精神的に安定してきている。
しかしビデオの回収の話を俺が持ち出すと、途端に人が変わってしまう。
頑なに「もういいでしょ、あいつだって馬鹿じゃないんだからあれを表に出したら自分だってただじゃ済まないことぐらい分かってるよ」
そう言って俺にもう忘れろと執拗に迫る。
俺はそんな妻の様子にどうしようもない不信感を感じ、何度か妻を問いただした。
「なあ○貴、ひょっとして俺にまだ言ってないことが何かあるのか?もしそうなら全て聞かせて欲しい」
その度に妻は「なんにも隠してることなんてないけど…だってあなた、あいつからビデオ回収したら見るでしょ?」
「それが嫌なの、いくら私が言った通りの内容だったとしても、あなた見ちゃったらまた落ち込んで荒れるでしょ?」
畳みかけるように妻は続ける。
「もうあいつのことは二人で忘れようよ、私はもうあいつのことなんて何とも思ってないから」
「私が愛してるのはあなただけ、今も、10年後も、その先もずっと私はあなたのそばにいる、それじゃダメなの?」
妻が言うことは恐らく正論で、正しいのだと思う。
あの男の亡霊に怯え、妻との関係にひびを入れるよりも、すっきりと忘れて明日を考えるべきなのだろう。

…しかし、何かが妙にひっかかる…
その思いが日増しに強まり、まるで抜けない棘かなにかのように俺を苦しめる。

その日の昼過ぎにA田から、例の2年前に短い期間あの男と付き合っていたという女性の話が聞けたという連絡があった。
俺たちは久しぶりに直接会って話すことにした。
いつもの、駅の近くのファミレスで待ち合わせると、約束の時間の5分ほど前にA田はやってきた。
A田は俺に「おまえやっぱ少し痩せたな、まあ仕方がねーよな、ダイエットには苦悩が一番かもな」などと軽口をたたきながら本題に入った。
その女性がまだA田や妻が通っていたのと同じ店舗に来ていたころに、A田とその女性は当然に面識があり、
お互いに会えば挨拶ぐらいはする間柄だったようだが、一応共通の女性の友人に間に入ってもらい3人で食事をしてきてくれたそうだ。
その女性は今は、近郊大都市の中心部にある店舗に通っているため、当然こちらの店舗の事情には詳しくないため、
A田は自分の知り合いの妹があの男から交際を申し込まれていて、相談を受けているというシチュエーションを創作して話を進めた。
女性は明るくあっけらかんとした性格らしく、かなり突っ込んだ話にも元気に答えてくれたようだ。
A田「…それでね、あんまりあの人のいい噂が聞こえてこなくてね、実際どんな人なの?」
女性「私も2カ月も付き合ってなかったからあんまりわかんないけど、でもはっきり言って、あれは絶対に止めたほうがいいと思うよ」
女性「強度のマザコンでね、お母さん死んでるからどうしようもないよ、一言で言えば気
持ち悪い、馬鹿だし」
女性「それにあれはれっきとした変態だから」
はっきりと侮蔑の表情を見せながら、半ば嘲笑するようにそう言い放つ女性に、笑いながらA田が突っ込む。
A田「変態って何?SMとか3Pとかそういうの?」
笑いながら女性が「それぐらいならやってみたい思ってる男は結構多いんじゃない?」
女性「あいつはね、なんて言えばいいのかな?もっと根が深いんだよね、付き合いきれな
い、無理、さすがに詳しいことは言わないけどね」

逆にその女性からA田は質問される
女性「あの馬鹿に付き合ってくれって言われてるのって20代の独身の子なんだよね?」
「…あの馬鹿にしちゃ珍しいな…あいつが大好きなのって30代の子供がいる人妻のは
ずなんだけどな…」
A田「…?」
女性「あの馬鹿はマザコンだからさ、あいつの母親が死んだ時がたしか30代の中盤なんだ
よね」
  「それであいつはその年代の人妻に異常な執着があるのね、気持ち悪いことに」
  「私には軽い気持ちだっただろうし、全く本気じゃなかったと思うよ」

その女性からA田が聞きだしてきてくれた情報は大体こんなところだった。
俺とA田はその情報について話し合った。
俺はその女性に「変態」と切り捨てられたあの男の性的な異常性が激しく気にかかる。
SMや3Pなどと言った行為を笑って話せる女性が言い淀むほどの根深いものとはいったいどんなおぞましいものなのだろう…
あの男のそのおぞましい性的な異常性と、俺ののど元に刺さったままの小さな抜けない棘は関係があるのだろうか…
残念ながら現時点では、俺にもA田にも全く想像すら出来ない。
妻を問い詰めたとして答えは得られるのだろうか…
俺は先日の妻のビデオをめぐるやり取りを話した。
A田は言った「回収はするべきだが、たとえ回収できたとしても、奥さんの言うとおりで、おまえは見ない方がいいと思うぞ」
「いくら内容を知ってたって、映像として見てしまえば絶対にトラウマになるような機がする…」
確かにA田の言うとおり、ビデオを手にしてしまえば、俺は見ずにはいられないだろう。
そしてその結果また激しく嫉妬して妻を責めてしまうと思う。
A田は回収には自分も立ち会い、俺に手渡すことなく自分が処分すると主張する。
恐らくそれが一番良いのだろうと思う、しかし…

あの男が強度のマザコンだという話は、妻が俺に語った内容からも十分に推測できる。
妻に対しての子供のように甘えた言動や、異常な執着も恐らくそこから来ているのだろう。
男の執着の対象は子供を持つ女性の「母性」そのものなのだろう、自分が母親から十分には与えてもらえなかったもの。
生きていた頃の母親の姿形に最も近い年代の、「子を持つ女性」を、自分の記憶に重ね合わせているのだろう。
哀れな男と言えなくもないが…

妻には、いまだに俺とA田があの男のことを調べていることは黙っているつもりだったが、
家に帰り、娘が眠って、妻と二人だけになると結局聞かずにはいられなかった。
俺がA田から聞いた例の女性の話をすると妻は、あの男の異常な性癖についての話には、
「私は知らない、全然気がつかなかった」と淡々と一言話しただけで、頑としてそれ以上話そうとしない。
普段見たこともない、その妻の冷淡な無言の拒絶に俺は戸惑うばかり…
結局それ以上俺は何も言えない、しかし妻はあの男の強度のマザコンの話については色々なエピソードを話してくれた。

「…そうだよね、あいつはマザコンだったんだよね、それも強烈なね
 私が細かいことで世話を焼いたりすると、“イエス、マーム”とか言っちゃ
ってすごい嬉しそうなんだよね、膝枕で耳掃除がすごい好きでさ…
母親の生前の写真が30枚ぐらいしか残ってないみたいだけど
豪華なアルバムに入れて大事にしまってあってね、あいつの宝物みたいだよ
頼んでもいないのに何度も見せられた
年は私ぐらいかな?少し影がある感じだけど、ほっそりしてて綺麗な人だよ」

あっけらかんと、憎からぬ様子でそう語る妻に俺は苛立ちを隠せない。
そんな俺の様子に気がついた妻は、急に黙りこむ。
そして、しばらく間の気まずい沈黙の後で妻が言った。
「…もう忘れようって私が言ってもあなたは忘れてくれないんだね…」
○貴、出来ることなら俺だって全て忘れたいさ、心の中で俺はつぶやいた。
翌朝から妻の様子が少し変わった。
ふとした瞬間に、何か考え込んでいるような表情を見せることがある。

俺は会社帰りに時間があると、あの男のマンションの前の古びた喫茶店に寄る。
いつもの窓側の席でただボーっと男のマンションの正面玄関と駐車場を見ている。
男は部屋にいる時もあれば、いない時もある。
出入りするあの男を見たことはあの日以降では一日もない。
俺も、見張っていたところで何かが掴める可能性がほとんど無いことは頭では分かっている。
ただ、そこでボーっと見張っていると何故か心が落ち着く。

土曜日の午前に会社の後輩の結婚式があった。
妻は久々に娘をつれて、俺のマンションから車で30分ほどのところにある実家に出かけると言っていた。
夕方の6時ごろには帰ってくる予定で。
神父の前で厳かに永遠の愛を誓う後輩達の様子や、披露宴会場の華やいだ空気の中で、俺の心は沈み、なんともいえない寂しさを感じていた。
こんな瞬間が俺と妻にもあった、ただ…
寂しい瞬間だった、どうしようもなく、祝辞を述べる関係になかったことが幸いだった。

2時過ぎに披露宴が終わり俺は家路についた。
しかし今帰っても、妻と娘は妻の実家に行っているので誰もいない。
俺は地元駅に着くと、そのままあの男のマンションの前のいつもの喫茶店に向かった。

その日は男は出かけているようで、駐車場にあの男のシルバーのメルセデスは止まっていない。
俺が煮詰まって少し焦げ臭い感じのコーヒーをすすりながら新聞を読んでいると、
突然視界の端から、一瞬妻に似た女の後姿が、足早にマンションの正面玄関に入っていくのが見えた。
油断していたこともあり、はっきりとはわからなかったが、背格好や髪型、雰囲気が妻に酷似しているような気がした。
俺はにわかに緊張した。
男は部屋にはいない、あれが妻だったとしたらいったい何をしにきたんだ?
男の部屋の合鍵を持っているということか?いまだに?疑問符だらけだ。
あの男と俺に隠れてまだ続いていて、会いにきた?
それも不自然な感じがする、しかしこの後男が帰ってくればそういうことになる。

俺の頭が、結婚式の披露宴で飲んだアルコールのせいで少し緩んでいる状態からにわかに急回転し始め、全力で答えを求めた。
事件発覚後の俺と妻の苦悩の再構築の日々はなんだったのか?
もしもまだあの男と続いているのなら、到底俺は許せない。
湧き上がる怒りと、喪失感、恐怖で俺の心臓が激しく動悸する。
あの男が帰ってきたら俺はもう我慢を止める、男に詰め寄り妻を呼び出してケリをつける。
それしかない、もう無理だ。
俺がそう決心した矢先、現れた時と同じように唐突にマンションの正面玄関から先ほどの女が出てきた。
今度はきちんと確認できた、間違いなく妻だった。
妻は手ぶらで、あたりをさりげなく警戒するようにして出てくると、普段見せたことの無い険しい表情で足早に去っていった。
妻が男のマンションに入ってから出てくるまでおよそ10分少々。
妻は男の留守に勝手に上がりこんでいったい何をやっていた?
それに出入りの時のあの険しいただ事でない様子はどういうことだ?
ピンと来た、恐らくはあのビデオだろう。
妻はあれを密かに回収に来たのではないか?
それしか考えられない、
俺とA田がビデオの回収を諦めていないことを前日に知った妻が、先回りして回収しようと今日男の留守宅に勝手に上がりこんだ。
そういうことなのだろう。

妻の姿が消えて10分ほどしてから俺は喫茶店を出た。
駅に戻り自宅へ向かうバスに揺られながら俺は、妻のこの突然の大胆な行動の理由を考え続けた。
ここまでしてでも俺に見られたくないもの、あのビデオにはいったい何が映っているのか?
昨夜、男の性的な異常性についての話の時の妻の驚くほどの淡白な無反応。
○貴、おまえはいったい何をされた?何をした?
気になりだしたらそれこそきりが無く、俺はある種の得体の知れない気持悪さをどうすることも出来なかった。
そして妻は、今日男のマンションで目的のビデオを無事に回収したのだろうか?
そのビデオを男がどういう状態で保存していたのかが不明なのでなんとも言えない。
妻はマンションから出てきた時に手ぶらだった。
しかしそのビデオがポケットに収まるサイズのものだったとしたら持っていた可能性も捨てきれない。
わからないことだらけだ…
ただこれだけは分かる、俺は妻に今日の話を聞くことは出来ないし、妻も正直に話すことはありえないだろう。

午後5時過ぎに妻は娘と一緒に帰ってきた。
ジーンズに細かいストライプのシャツ、羽織った黒のカーディガン、やはり間違いなくあれは妻だった。
妻の様子は俺が朝出かけた時と別段変化は無く、「お嫁さんどんな人だった?」などと聞きながら
俺が結婚式で貰ってきた引き出物を娘と二人で広げていた。
娘にせがまれて入っていたバームクーヘンを切り分けて皿に盛り、娘にはジュース、俺と自分にはコーヒーを入れた。
俺は「ビデオは回収出来たのか?」と聞きたくてたまらない欲求を抑えるのに苦労した。

もしもストレートに聞いた場合に妻はどう答えるだろう?
もしも今日妻があの男の部屋から回収していれば、当然にもう処分しているだろう。
そして妻はありのまま正直にそう答えるのではないか?
それならばそれである意味では問題は解決する。
ビデオの内容は永久に闇の中で、俺がそれを知る機会は永久にこない。
それならばそれでいい、綺麗さっぱりあの男ごと忘れてしまえばいいのではないか?
しかし妻がもしも回収出来ていなかったとすればどうなるだろう?
恐らくその場合も妻はこう言うのではないだろうか?
「無事に取り戻してもう処分したから大丈夫」
やはり妻には今日のことは話せない、妻が今日回収していないことを前提に進めるしかない。
あの男の手元にビデオが残る事態だけは避けなければならない。
こんなことを考えながら、皿に乗ったバームクーヘンを口にすることなく弄んでいる俺に妻が「どうしたの?何考えてるの」と聞いてきた。
俺ははっとして我に帰り、無理やりに愛想笑いをして「いや、なんでもないよ」と曖昧に誤魔化す。
これからは妻に状況を話せなくなった、いきなり何も話さないのも怪しまれるだろう。
何気なく興味を失っていく姿を演じなければならない。

妻に対する大きな疑心暗鬼と、妻があの男にいったい何をされたのかという疑問、
そしてその忌まわしい想像がもたらす恐怖に、俺の精神は徐々に蝕まれてきている。
毎晩妻を問いただしたい欲求が膨らんでいき、何も言わない妻をどんどん信じられなくなっていった。
しかしその、俺にとっての出口の見えない精神の迷路は、A田からの電話によって、唐突に終わりを告げる。
その日のA田は最初から緊迫していた。
大至急会って話したいことがあると言う。
俺は夕方仕事を終えると、待ち合わせの、駅そばのいつものファミレスに向かった。
A田の言葉少なに緊張した様子が気にかかる、間違いなく良くない知らせだろう。
時間通りにファミレスの入り口に現れたA田は足早に俺の席に向って歩いてくる。
席に座ると、険しい表情で開口一番「ちょっと、嫌な話が出てきた…」と言い難そうに話しを始めた。
その日の昼休みにA田は例の、今年の2月までスポクラに来ていて、あの男と仲が良かった20代の男性会員に会って話を聞いてきてくれた。
(A田と男性会員の勤務先は共に近郊大都市中心部にあり、徒歩圏内の至近距離にある)
A田は例によって、自分の知り合いの妹があの男から交際を申し込まれていて、自分が相談を受けているという設定で話を進める。
その男性は始めのうち、核心部分については話したがらなかったようだが、A田に頼みこまれてしぶしぶ話してくれたそうだ。
仮にその男性を○本とする。
あの男と○本とは、ある人気インストラクターのプログラムで毎週一緒になっていて、次第に話しをするようになる。
そのうちに○本はあの男に誘われる形で、一緒にその人気インストラクターを追っかけて別の店舗のプログラムにも参加するようになる。
しだいに関係は深まっていき、スポクラの帰りなどにちょくちょく近所の居酒屋などで一緒に飲むような関係になった頃に、
あの男はその当時付き合っていた、30代後半の麻○という名の美人人妻を同席させるようになる。

そして彼らはスポクラの内外で、しだいに3人での行動が増えていくようになる。
○本はもちろんあの男とその人妻の噂は知っていたし、交際しているという話はそれまでにあの男の口から直接聞いて知っていた。
しかし、勝気だが、細身でスタイル抜群のその美人妻は男性会員達の話題に上ることも多く、彼女がいない○本は3人での行動が内心楽しかったそうだ。
あの男は、○本と二人の時に麻○という人妻の体やSEXについて詳細な話をしていたようだ。
○本は、身近な美人妻のリアルなSEXの話にずいぶん興奮したと言っていた。

そして年が変わり、今年の1月が始まり、○本とあの男がスポクラの帰りに居酒屋で新年会と称して飲んでいた時に、あの男がある提案をする。
あの男を仮に○川とする。

○川「○本君さ、麻○を抱きたくない?」
○本「えええ?何言ってるんですか、そりゃああれだけ綺麗な人ですからしたいに決まってますけど(笑)」
○川「じゃあ抱かせてやるよ、麻○も○本君ならいいって言ってるよ?」
○本「3Pとかってことですか?…ちょっと待ってくださいよ…」
○川「違う違う、そういうのじゃなくてね、俺の部屋に麻○を呼んでおくから、○本君が麻○を一人で好きなように抱けばいいんだよ」
○本「えええええ、だって麻○さんは○川さんの彼女でしょ?」
○川「俺と麻○はそんなヘビーな関係と違うから、それに俺にも麻○にもいい刺激になるんだよ」
○川「○本君も大人にんればわかるよ(笑)、麻○って旨そうな体してるだろ?気が強いけどあの時は可愛い声出すよ」
その時に○本は、興奮と緊張で喉がカラカラになり、頭がグラグラしたと言っていた。
あの男に押し込まれるような形でその夜○本は、何がなんだかわからないうちに承諾させられる。
○本「…でも、麻○さん本当にいいんですか…」
○川「大丈夫、大丈夫、麻○は何度かやってて慣れてるから、それに俺も寝室のドアを少し開けてこっそり見てるから」

その日以降○本は、自分がほのかな思いをよせていた、美しい人妻を抱きたいという欲望と、自分の中の倫理観や罪悪感との間で激しく心が乱れていく。
身近に接してきたからこそ妄想が膨らみ、その日以降麻○と顔を合わせる度に何度も激しい欲望を感じるようになる。
しかし結果的には○本はその話を断る、約束の日が近づくにつれ、次第に○本が生まれ持った倫理観や常識が顔を出し始める。
彼が言うには、一番大きな理由は麻○という名のその女性が人妻であったことだったらしい。
あの男は麻○のただの浮気相手に過ぎず、麻○には家庭があり、夫がおり、娘がいること。
それを考えた時に、○本の頭の中で何かの危険信号が灯り、我に返る、巻き込まれてはいけない、こんな人間達に係わってはいけない。
そして、そんな異常な行為が平気で出来る麻○という人妻のことを、それまでと同じように、ある種の憧れの対象として見られなくなっていく。
そして○本はフェードアウトするようにあの男と麻○という名の人妻の前から姿を消した。
最後に○本はこう締めくくる、「結局俺はまだ綺麗な女性に夢見たいんですよ、そんなシビアな現実は見たくなかったです」
「とか言いながら、惜しかったな~なんて思いもいまだに感じますけどねヘヘヘ」
「年は離れてるけどあんなにいつもきちんとしてる綺麗な人知りませんから、でもなんかがっかりしました」

○本という男性の話を終えるとA田は回りくどい言い方で俺に言った。
「この話はあくまでその人妻の話で、まあ○貴さんに限ってそんなことは無いと思う…」
「ただその人妻がどうしようもない女だたって話しかもしれん」
「この話だけで○貴さんのことを判断するな、男も女も付き合う相手によってその関係は全然違うものになるんだよ」
「俺のこの話だけで短慮は止めろいいな?俺はもう少し探るから待て」
沈痛な面持ちでやっとそう言うA田に俺は礼をいい、ファミレスを後にする。

しかし俺はそのまま駅ではなく、あの男のマンションに向った。
ファミレスから男のマンションまでの道のりは一瞬だったような気がする。
俺はもうこんなどうにも出口のない牢獄に囚われ、徐々に精神が蝕まれていくことに到底耐えられない。
今夜様々な疑問や苦しみにケリをつける、もう俺に残された僅かな精神のかけらを維持するにはそれしかなかった。
男のマンションの前につくと俺は、端から3番目の男の駐車場を確認する。
メルセデスは止まっていない、あの男はいないようだ。
俺はいつもの古びた喫茶店にはいるとコーヒーを注文した、代金は先に払っておく。
全く味のしないコーヒーを時折喉に流し込んでいて、様々な最悪な妄想に襲われ気が狂うかと思い始めて、
しかしそれから俺が2時間の心の地獄を経験し、耐えられなくなる寸前に、駐車場にあの男のメルセデスが入ってきた。
俺は急いで喫茶店を出ると、足早にマンションの正面玄関に向かう、入り口の数メートル手前で、男の斜め後ろから呼び止めた。

「○川さん」
男は反射的に俺の方に振り返り、怪訝な表情で俺を見つめる。
「俺は○貴の夫です…」
男の端正な二重の瞼がわずかにピクリと反応する、次の瞬間男は大きく眼を見開き絶句する。
俺が構わず「…どうします?ここで話しますか?」と投げかけると、男は諦めたようにガクっと肩を落とし
「…いえ…どうぞ…」と言うとマンションの中に入っていく。
俺とあの男は無言のままエレベーターに乗ると、8階の男の部屋に向う。
リビングの応接セットのソファーを俺に進めると男は、あの男は仕方がなさそうに土下座する。
「とりあえずお詫びします、申し訳ありませんで…」
俺は最後まで言わせなかった、「とりあえず」その男の一言で俺は完全にキレた。
土下座している男の頭を思いっきり蹴りあげた、男は仰向けにひっくり返る。
俺は近づいていき、頭といわず腹といわずところ構わず何度も何度も蹴った。
男に馬乗りになると両手の拳で男の顔面を滅多打ちにした。
鼻や唇、目じりや目の上から大量の血を流しながら、男は必死で「すいません、すいません、ごめんなさい、許してください」と泣きながら懇願する。
それでも俺は殴り続ける、男が何も言わなくなるまで。
俺はそれまでの人生で何度か殴り合いの喧嘩をしたことがある。
ただこの瞬間の俺は、生まれて初めて相手を殺しても構わないと思って殴った。
自分にこれほどの仮借のない暴力性があったことに自分自身でで驚いた。
やがて男がぐったりして何も言わなくなると俺は男から離れた。
しかし次の瞬間に再び衝動的な殺意に襲われ、男に近づくと思いっきり腹を蹴った。
男は「ウグッ」と呻いて胃液か何かを吐いていた。
俺はソファーに倒れ込むようにして座ると、殺意が鎮まるのを待った。
両手の拳が激しく痛む、へたしたら骨折ぐらいしているかも知れない。
男は苦しそうに呻き、泣いている。

どれぐらいそうして座り込んでいただろう?ようやく俺を取り巻いていた怒りの赤い靄のようなものが俺の頭から消えると、俺は男に聞いた。
「ビデオはどこにある?」
男はビクッとして血まみれの顔を俺の方に向ける。
俺はゆっくりと繰り返す
「俺の妻を映したいやらしいビデオはどこにある?」
まだ俺の質問の意味が理解できない様子の男の頬ほ平手で何度かはたいた。
俺の質問内容をようやく理解したらしい男が怯えて震えながら答える。
「…ベッドの下に…」
俺が男の寝室のベッドのマットを力づくでひっくり返すと、中ほどにDVDラックがあり、20枚弱のDVDがケースに入れて保管してあった。
ケースには麻○や恵○と言った名前が書き込んであり、○貴と書かれたものも4枚あった。
俺はそれを全て男の部屋のキッチンで見つけた45リットルのごみ袋に詰め込んだ。
その後俺は男から携帯を取り上げて、たたき割った上で、前日の残り湯が張ってあったバスタブに放り込んだ。
そして男の部屋を家探しして見つけた、男のパソコンとビデオカメラも、同様に破壊した上ででバスタブに沈めた。
男はショック状態で、俺が何をしていても、完全に無反応だった。
そして、帰ろうとしていた俺の眼にあるものが飛び込んできた。
それは、リビングの大画面TVの下のラックに置いてある豪華なアルバムだった。
豪華なアルバム、それに俺は反応する。

先日の妻の言葉が脳裏に浮かぶ。

「母親の生前の写真が30枚ぐらいしか残ってないみたいだけど
豪華なアルバムに入れて大事にしまってあってね、あいつの宝物みたいだよ」

俺がそのアルバムを手に取り、開いてみると、30代と思しき影のある、儚げな細身の女性が映っていた。
今とは時代が違う髪型や服装の、その異常に病的に色白のその女性は、一人であったり、小学生の男の子供と一緒であったり、あるいは家族であったり。
しかしどの写真を見てもその女性は暗い思いつめた表情をしていた。
おおよそ30枚ほどのそのアルバムの写真を見終えると俺は、1枚づつ取り出して、男の眼の前で破いていく。
最初、海老のように丸まって、ショック状態だった男は、俺が何をしているのか気がつくと、ばね仕掛けの人形のように突然跳ね起き、
「…なにしてんだよ…止めろおおお!」と絶叫して俺に向ってきた。
俺は再び男が抵抗しなくなるまで殴る。
そして男の母親の写真を1枚づつ丁寧に破いていく。
男は再び泣き叫びながらまた向ってくる。
そして俺はまた抵抗しなくなるまで男を殴る。
何度かそれを繰り返すと、男は土下座しながら振り絞るような声で懇願し始めた。
「お願いします、それだけは止めてよ、お願いだから、なんでもします、いくらでも払いますから、やめて、母さんを殺さないで、お願いだから」
「…許してください、お願いします…なんでもします…許して、もう止めて」
悲痛な男の叫びが室内に響き渡る、しかし必死で懇願する男の眼の前で、俺は機械的に写真を破いていく。
俺は全ての写真を破り終えると、ゴミ袋に入れたDVDを手に、男のマンションを後にした。
俺が最後に男の部屋で見た光景は、びりびりに破られた写真をかき集め、胸に抱きしめるようにして号泣している男の後ろ姿だった。
人がこれほど悲しく泣けるのかと思えるぐらいに男は泣いていた。
その男の後ろ姿を見て俺は思った、死ねよゴミ、殺してやろうか?

俺の白にグレーのストライプのワイシャツの胸のあたりは、あの男の返り血が点々と飛び散っていている上に、
両手の拳は、その頃になると紫色がかってきていて、とてもバスには乗れそうもない。
仕方なく駅前でタクシーを拾い家に向った。
タクシーの運転手は、明らかに不審そうな様子を見せていたが、俺の尋常でない様子にあえて何も言わなかった。

家に着いた時には、すでに9時を回っていた。
俺を玄関に出迎えた妻は、一目で事態を察したようだった。
一瞬で顔色が蒼白に変わり、俺が右手に持っていたDVDの入ったゴミ袋を指差して言う
「それを渡して」ためらう俺に、妻は一歩前にでて強く迫る「それを渡して、私が処分するから」そして手を伸ばし、俺から奪い取ろうとする。
俺が反射的に奪われないようにすると、眦を決してキッと俺を睨みつけて妻は言う。
「そのビデオは私があなたに言った通りの内容しか映ってないから、あなたは見なくていいの!渡して」
「…見たらもう戻れなくなるよ、全部ダメになっちゃう…あなたはそれでいいの?」
俺の体から力が抜ける、そして俺はそのゴミ袋を妻に差し出した。
妻の瞳から大粒の涙が数滴滴ると、俺に激しく抱きついてきた。
「ありがとう……ごめんなさい…」
妻は○貴と書かれたDVDケースの中身を、電話帳の上に載せ、金づちとドライバーで、執拗な執念で粉々になるまで叩いていた。
静まり返った深夜のリビングに、ガツッ、ガツッという、妻がDVDをたたき割る音が無機質に響いていた。

俺の両手の拳はいよいよ紫色にはれ上がり、どうしようも無い状態になっていた。
明日は会社に遅刻の電話を入れて、病院に行くしかない、多分骨折しているだろう。
激しい痛みをこらえて、しかしそれでも風呂に入った俺の両手の拳の応急手当てを済ませた妻は、激しく俺を求める。
反応しない俺を、必死で咥え、舐め、しゃぶる、舌を絡めてキスをし、乳房を押しつける。
長い時間そうしていて、少しだけ固くなった俺に自分が上になり、無理やりに入れると、激しく腰を使う。
何かに憑かれたように激しくあえぐ妻、やがて俺が妻の中に射精すると、最後の一滴まで搾り出すように腰をゆっくりと使う。
そうしてようやく妻は安心した様子で、俺の腕の中で思いっきり甘える。
何度も舌を絡めてキスをして、俺の瞼は目じり、乳首や首筋にねっとりとしたキスをした後で妻が言った、
「フフフ、すごいいっぱい出たね、凄い入れしい、あのね、今日はね、可能性高い日だから、二人目出来てるといいね」
嬉しそうに俺に甘える妻を左腕に抱きながら俺は考えていた。
俺は、タクシーの車内で知美と書かれたDVDケースに入れ替えてある、鞄の中の妻のDVDの内容が激しく気になった。

その夜、俺は全く眠れなかった、妻も眠れない様子だったが、午前2時を過ぎたあたりで眠りに落ちたようだった。
俺の頭の中で、見れば戻れない、終わりになると言う妻の言葉が何度も浮かんでは消えた。
もうすでに過去の出来事であり、今更どうすることも出来ない事実など、知らなくてもいいじゃないかと何度も自分に言い聞かせる。
しかし俺は結局知りたい欲望に負ける。
午前4時を回ったところで、俺は苛立ちと焦燥感でどうにもならなくなり、妻を起こさないように、そっとベッドから抜け出す。
寝室のドアを閉め、リビングに向うと、鞄の中から4枚ある妻のDVDを取り出した。
しかしそこでまた、俺の中に迷いと躊躇いが生まれる。
妻がしたように、俺もその4枚のDVDを粉々に破壊することが一番いいのではないか?
しかしそれで本当に良いのか?それだと俺はこの先一生抜けない棘が刺さったままで妻と生きていかなければならない。
全てを知った上で妻を許し、受け入れなければ今回の問題は終わったことにならないのではないか?
しかしもし許せない内容がそのDVDに収められていたらどうなる?
妻は、見れば戻れない、終わってしまうと言っている。
答えなど決して出ない問題を俺は延々と考え続け、そして最後に疲れてしまった。
考えることに疲れ切ってしまった俺は、半ば機械的にPCに1枚目のDVDをセットした。
1枚目のDVDは妻の自慰の映像だった、ただしそれは妻が自分で言っていた内容とはかなりの違いがあった。
まず、それは妻が言っていたのとは違い、携帯ではなくて、ビデオカメラで撮影されたものだった。

DVDは、あの男のマンションの寝室のベッドに腰かけた、妻の全身映像から始まる。
白い体にフィットしたTシャツに、デニムのミディアム丈のスカート姿の妻が俯いている。
やがて妻はカメラのレンズを見ないようにしながら、Tシャツを脱ぐ。
そしてスカートを脱ぐと下着だけになった、背中を向けながらしばしの躊躇いを見せていた妻はやがて、背中のブラジャーのホックを外す。
両腕から肩ひもを抜くと、ベッドの端に外したブラジャーを置く。
背中を向けたまま立ち上がり、両手でショーツを脱いでいく。
カメラに裸の尻を晒し、全裸になった妻はそのままベッドに横たわる。
カメラが回り込み、妻の全身を捉えようとすると反射的に妻は、両足を寄り合わせ、片方の腕で胸を、もう片方の手で顔を隠す。
男の声が苛立ったように手をどけろと言っている、躊躇しながらやがて妻は両手をどけて、諦めたように全てを見せる。
男の声は足を広げろと言っている、おずおずと足を広げる妻に男はもっと広げろと命じる。
結局妻は左右の足を大きくM字型に広げさせられる。
カメラはじっと目を閉じている妻の顔のアップ、乳房のアップ、そして妻の秘部のアップへと移っていく。

妻の睫がふるふると震えている。
ひとしきりアップを撮り終えると男は、妻に自分の指で秘部を広げろと命じる。
躊躇い、従わない妻に男は苛立ちやれと怒鳴る、妻は悲しそうに、諦めた様子で従う。
カメラに向って、自分の両手で秘部を広げて見せる妻に男は、もっと広げろと命じる。
限界まで広げられた妻の秘部をカメラに収めた男は、妻に言う、「じゃあ始めて」
妻は両足をM字に開いたままの状態で、左手で左の乳首を摘むように弄りながら、もう片方の手でクリトリスを弄る。
しかし数分間そうしていても、妻が感じている様子は無い。
イクところを見せろと何度も命じても、無理な妻の様子に、やがて男は20センチほどの電動のマッサージ器のスイッチを入れて手渡す。
妻は男に渡されたマッサージ器をクリトリスに軽く押し当てる、妻はほんの1分ほどであっけないほど簡単に、ウッっと小さく呻き、
足と腰を2度ほどビクビクと痙攣させ、ギュッと固く目を瞑り逝ってしまった。
男は逝った直後の妻にまた、広げろと命じる。
さすがに妻は躊躇いをみせるが、再び男に広げろと強い口調で命じられると、諦めたようにおずおずと秘部をカメラの前に広げて見せる。
男は少し湿り気を帯びた妻の入り口を男はしつこくアップで映し、フェードバックするようにカメラを引き、妻の全身の映像で終了する。

正直に言って俺は、このDVDの内容に怒りを覚えたし、また激しく動揺もした。
しかし妻の自己申告よりは遥かにいやらしい内容ではあっても、基本的には妻が言っていたことと大差が無いとも言える。
何よりも妻の、というか、妻しか映っていないことで、ある意味ではまだ俺は大丈夫だった。
2枚目のDVDを見るまでは。

2枚目のDVDはやはり男の寝室のベッドの上で、紺の半袖のブラウスに薄いピンクのタイトスカートをはいた妻が横たわっているところから始まった。
映像は少し離れた場所からの固定アングルだが時々ブレているので男が手で持って撮影しているものと思われる。
簡単に言えば、隠し撮りのような感じの映像だ。
カメラの視界の外から突然40代と思しき中肉中背のメガネをかけた男が現れ、ベッドの妻に近づいていく。
ベッドの上で無言で無反応、人形のようにただじっと横たわる妻に近づくと男は、キスをしながら洋服の上から妻の胸や太ももを揉みしだく。
妻のタイトスカートの中に手を入れて、ショーツとパンストの上から股間をまさぐっていた男が、やがて興奮した様子で妻のブラウスのボタンを外しにかかる。
男は不器用な手つきでブラウスのボタンを全部外して脱がすと、妻を少し横向きにしてブラジャーを外した。
妻は何も言わず、人形のようにされるがまま。
男は妻の乳房を揉みしだき、乳首を弄る、妻の口から耳、脇や首筋に舌を這わせ、執拗に乳首を吸い、舐めまわす。
妻の胸を散々楽しむと男は、妻のタイトスカートのホックを外し、ジッパーを下げる。
腰のあたりに手を差し入れてスカートをずり下げるようにして脱がすと、さらにパンストを破かないように注意しながら脱がす。

男はショーツの上から、妻の秘部をしばらく弄んだ後で、妻のショーツをずりおろし全裸にする。
男は自分もベルトをはずし、スーツのズボンを脱ぎ、全裸になる。
男は妻に覆いかぶさるようにして、再び妻にキスをして乳首を口に含む。
妻の両足を開かせると、右手で秘部を広げて弄る。
妻が、男に膣の中に指を入れられた瞬間に一瞬苦痛の表情を浮かべたのが分かった。
全く濡れていないのだろう。
そのうち男は妻の両足をM字の形に折り曲げて、太ももに何箇所もキスをすると、両手で妻の秘部を広げて執拗に吸い、舌を使い舐めまわす。
しばらくそうした後で男は、自分のペニスを妻の顔の方に持っていき、フェラチオを促すが、妻は全く無反応で応じない。
諦めた男は再び妻の両足を抱え上げて、自分のペニスで妻の入り口を押し広げるようにこすりつけると、一気に妻の中に挿入した。
その瞬間に妻は、今度ははっきりと苦痛の表情を浮かべ、初めてウッと声を上げた。
男は「ごめんね、痛かった?」と妻に声を掛けるが、妻は無反応。
音声は、男に突かれ揺すられながら一切声を出さない妻の代わりに、ぎしぎしと僅かな軋みを上げるベッドと、撮影しているあの男の少し荒い息遣いしか拾っていない。
やがて男の腰使いが早まり、男は妻の腹の上に射精する。
男はティッシュで自分の後始末をすると、妻に背中を見せ、そそくさと身支度を始める。
男が再びカメラの視界から消えるとレンズは、男に腹の上に射精されたままじっと動かない妻だけを映し出す。
妻の肩がわずかに震えている、距離があるのではっきりとは分からないが、どうやら妻は泣いているようだ。
そこで映像は終了する。

3枚目のDVDも男がもう少し若く30代の中盤であることと、妻が着ている洋服が違うぐらいで、内容はほぼ同じ。
空虚な人形のように無反応な妻を、男が好きなように弄び、抱くだけ。
ただ唯一の違いは、終わった後に妻に泣いている様子が見られなくなったことぐらいだ。

4枚目のDVDは、妻の服装が長袖に変わったことと、髪型からかなり最近に撮られたものであることが窺い知れる。
男はまた別の男で50歳手前ぐらい、妻は相変わらず空虚で無反応だが、このDVDで妻は、
相手の男の要求どおりに機械的にフェラチオをしている。
また、男のなすがままに、四つん這いになりバックで抱かれている。
男の上に乗せられ、騎乗位で機械的ではあるが自分で腰を揺すっている。
だからと言って感じている様子などは微塵も無いが…

俺は全てのDVDを見終えると、怒りでは無く、とてつもない疲労感と虚脱感に襲われて天を仰ぎ、放心してしまった。
あまりに理解できない状況に直面して何をどう考えればいいのか全く分からなくなった。
どの映像からも、妻が積極的にやっている様子や、喜んでいる様子は全く見られない。
はっきり言えば嫌々、無理やりにやらされているようにしか見えない。
なんだこれは?妻はあの男に脅されて無理やりに売春をさせられていた。
そう考えることが一番自然のようにも思われる、しかし…
そもそもあの男は金には困っていない。
嫌がる妻に無理やり売春をさせて小銭を稼ぐ必要など無いはずだ。
俺の頭の中に先日のA田の話が蘇る「あの男の性的な異常性」の話が蘇る。
俺の頭の中で何かが形をなそうとした瞬間に俺は背後に人の気配を感じ、振り返った。

幽鬼のように蒼白な表情を浮かべた妻が立っていた。
妻は振り返った俺に、それまでに聞いたことも無いような低く掠れた声で言う。
「…見ちゃったんだね…、あれほど見ないでって頼んだのに…」
そして、無理やりにほほ笑むと続けた
「ほら、言ったとおりでしょ、もう終わりだよね、私を許せるはずがないでしょ?」
そう言うと背中を向けて、ふらふらと玄関に向う妻を俺は呼び止める。
「○貴、待て、待ってくれ、なんだこれは?どういうことか説明してくれ」
立ち止り、俺の方に振り返って妻が言う。
「どういうことかって?あなたが見たまんまだよ、私はあの男以外にも一度も会ったことすら無かった3人の男達におもちゃにされて抱かれた、それだけ…」
俺はさらに
「おまえが嫌々だったことは映像からわかる、いったい何があったんだ?ちゃんと説明してくれ!」
必死でそう迫る俺に、妻はしばらく俯いていたが、やがて頭を上げるとフラフラとした足取りで俺の前に座る。
そして妻の長い話が始まった。

○川の母親は、夫を交通事故で亡くした後、小学校6年だったあの男を残し33歳の若さで自殺する。
もともと、○川の父親が存命中から夫の両親と不仲だった彼女と義理の両親の関係は、夫の死によって決定的に悪化していく。
大きなストレスの中で、躁鬱の気があった彼女の心はどんどん壊れて行ったようで、次第に行動が破滅的になっていく。
○川の世話をほとんど放棄するようになり、どうでも良い男をとっかえひっかえしては溺れていく。
美しい○川の母は、男に不自由することは無かったようだ。
やがて、義理の親の不在の度に男を家に引っ張り込むようになる。
ある時小学校が短縮授業でいつもより早く終わった○川が家に帰ると、母親の部屋からなにやらくぐもった声が聞こえてくる。
○川が近付いていくと母親の部屋の襖がわずかに開いていた、息苦しい胸騒ぎを感じながら○川がそっと覗くと、
部屋の中央に布団が敷いてあり、その布団の上で○川の見知らぬ男に全裸で、激しく絡み付くようにして抱かれている母親の姿があった。
早くに父親を亡くしている○川にとって、美しい母親は密かな自慢だった。
その大切な、美しい、自分の母親が、白い裸身を晒し、淫らな声を上げ、髪を振り乱して悦んでいる姿に○川は激しく動揺する。
自分は見てはいけないものを見ている、早くここを離れなきゃ、そう心の声が伝えるが○川は母親の裸身から目が離せない。
その時の心境を○川はこう表現している
「喉から心臓が飛び出しそうだったけど、母さんがすごい綺麗でね、眩しいぐらいだった」
○川は激しく勃起している自分を感じ、そしてそのまま小学校6年の4月、初めて射精する、覗き見た母親の情事の様子によって。
それ以降、母親が男に抱かれている姿をこっそり覗き見ることが○川の何よりの楽しみになる。
妻と肉体関係ができると○川は、自分のことをわかって欲しいからと言って、しだいにそんな話をするようになっていった。

自分を構ってくれない母親に対する、○川の捻じれた愛情はどんどんエスカレートしていく。
母親の入浴姿をこっそりと覗き、一人で自分の部屋にいる母親を覗く。
そして○川は自慰に耽る母親の様子も何度か目にする。
しかし、そんな○川の密かな楽しみは、その半年後にいよいよ心を病んだ母親の服毒自殺によって唐突に終わりを告げる。
巨大な喪失感を抱えたまま成長していった○川は、やがて自分の性的な反応が同年代の友達たちと微妙にスレていることに気がついて行く。
中学生になり、高校生になっても他の同級生たちのように同年代の女子に全く性的な興味がわかない。
○川にとって性的興味の対象は30前後の子持ちの女性だった。
そして自分のマスターベーションのための妄想の対象は何年たっても、男に抱かれて喘ぐ母親の姿だった。
しかしやがて自分も30代になるわけで、時がたてば自然と解決する問題だと当時の○川は、あまり深くは考えなかった。
しかしやがて大人になった○川は、もっと本質的な部分の自分の性の「歪み」に気がついていく。

○川が初めて女性と肉体関係を持ったのは、22歳。
当時地元の国立大の4回生だった○川はバイトで家庭教師をしており、相手はその生徒の母親の36歳の女性。
細身ではなかったようだが、太っているわけではなく、バランスの良い肉感的な体つきの女性だったようだ。
関係の始まりは、○川が中学1年のその男子生徒を教えるために、その女性の家に週2回通うようになった3ヵ月後。
○川はその生徒の母親に初めて会った瞬間から、それまで同年代の女性に一度も感じたことの無い激しい欲情を感じていた。
その母親が夫に抱かれる姿を想像して毎晩マスターベーションをするようになる。
そしてその母親も、自分のことを明らかに「女」として激しく意識し、どぎまぎした様子で、
まともに目も合わせられない○川のことを憎からず思っていたようだ。
ある時○川は、生徒がまだ学校にいっている時間の昼間に、生徒の勉強の相談があると言われて呼び出される。
○川が家に行くと、その母親は昼食を作って○川に食べさせてくれた。
そして昼食が終わると○川は誘惑される。
○川は毎晩思い続けた、そして自分にとって初めての女性の体に激しく溺れていく。

若い○川は情事の度に何度でも出来たし、毎日のようにその女性の体を求めた。
そして次第にその女性のことを本気で愛するようになっていく。
自分の母親以外の女性を始めて本気で愛した○川の中で、母親とその女性が重なっていく。
女性との情事の最中に頭の中に、母親が男に抱かれている映像が度々浮かぶようになる。
そして○川はある種の激しい「渇き」を感じるようになっていく。
「渇き」はどんどんと激しくなり、そして愛した女性を抱きたいと思う気持ちとは裏腹に、自分の下半身は冷えていく。
相手を愛すれば愛するだけ渇きは酷くなって行く。
症状はどんどん悪化し、SEXのたびに思い通りにならない自分の男性自身に苛立ち、嘆く○川のことを本気で心配する女性…
○川は女性に懇願する、夫に抱かれているその女性の姿が見たいと。
そしてその女性は、夫に抱かれる自分の姿をビデオカメラで隠し撮りして○川に見せる。
○川の脳裏に10年前の母親の情事の映像が鮮烈に蘇り、その女性と母親が完全に重なる。
○川は激しく欲情し、その日何度も何度もその女性の体を求めた。
結局○川とその女性の関係は、6年もの間続く。
別れは○川から、理由は、妻の推測では、女性が段々と年を取り○川の記憶にある母親の姿と離れていき、重ならなくなったから。

○川にレイプされ、無理やり始まった関係が、妻にとってあまり苦痛ではなくなったころに、妻は麻○という人妻の存在を知る。
○川と妻が一緒に出ているスポクラのプログラムに突然顔を出すようになり、妻に敵意をむき出しにして、執拗に○川に付きまとう。
その場では○川は当たり障りの無い対応をしていたようだが、麻○がいなくなると必死で妻に弁解する。
○川は妻に、○貴さんのことを本気で好きになったから麻○とはもう分かれたいのに、付きまとわれて困っていると告げる。
妻の目から見ても○川に麻○に対しての未練がある様子は見られなかったので、別に気になりはしなかった。
しかし麻○はその後も一ヶ月以上も二人に付きまとい、2度ほど妻はスポクラの帰りに待ち伏せされる。
麻○は妻に、○川と自分は1年以上付き合っている、自分達の交際の邪魔をするなと迫り、自分のことは棚に上げて、
「旦那さんも、小さな子供もいるくせにあなた何やってるの?バカじゃないの」と妻のことを激しく罵り、
そしてあざ笑うように「フン、あなたじゃあの人のこと満足させられない」と言い放つ。
妻の中で、○川に対しての愛情とは別の、女同士の闘争心に火がつく。
妻はこの女には負けたくないと強く思う。

妻はそのころ日々どんどん強くなる○川の自分に対する恋慕を感じるが、○川の男性自身はSEXの度ごとにダメになって行く。
そして○川はその度ごとに激しく落ち込み、自分自身を罵る。
そして相変わらず見え隠れする麻○の影。
自慰しているところが見たいと○川に懇願されて仕方なく応じると、その時の○川は久々に元気になり、無事SEXが出来る。
しかしそれも何回かすると、やはり○川は勃たなくなって行く。
妻は自分のせいだと思い込み悩む。
そしてしばらく前に麻○に待ち伏せされた時に言われた「あなたじゃあの人のこと満足させられない」と言う言葉が何度も脳裏に浮かぶ。
そしてある時○川は、自分の少年時代の衝撃的な母親の話と、初めての相手だった大学時代の女性との話を聞かせた上で懇願する。
「○貴さんが他の男に抱かれているところが見たい」と。
妻が驚き激しく拒否すると、その時の○川はあっさりと引き下がる。
しかしその後○川は、妻とのSEXでダメな度ごとに、激しく落ち込みながら必死で懇願するようになる。
しだいに妻の精神は追い込まれていく、妻はある時○川に提案する。
夫とのSEXを隠し撮りして見せるので、それでダメかと。
しかし○川は、ビデオで見るのじゃなくて、直接見ないとダメだと言う。

「○貴さんのことも俺のことも当然全く知らない、他県の男性を会員性のサイトで見つけて呼ぶから心配ないよ」
「もちろんそれ一回きりで○貴さんが顔を合わせることは一生無いから大丈夫」
「俺が見てるんだから、変なことされたりする心配なんて全くないよ」
「一度だけでいいから、そうすれば俺は救われるんだよ、お願いだ○貴さん」
「こんなに俺が苦しんでるのに助けてくれないの?」

○川は、脅し、すかし、泣きながら懇願し、必死で妻を説得する、何度も何度も会うたびに。
恐らくその頃の妻の頭の中で世界は、自分と○川、そして麻○の3人で成り立っていたのではないだろうか?
どうにもならない所まで追い込まれた妻は、結局○川のこの一言で承諾してしまう。
「麻○はやってくれたのに…やっぱ○貴さんじゃダメなのかな…」
妻は○川が麻○と完全に分かれることを条件に承諾する。
○川はその場で麻○の携帯に電話をかけ、厳しい口調できっぱりと別れを告げる。
一旦は承諾してしまったものの、その直後から妻は巨大な不安と、言いようの無い恐怖に激しく後悔する。
しかし○川はそんな妻を決して逃がしはしなかった。
毎日電話を何度もかけ、頻繁にメールを送ってくる。
そして妻は承諾した日から僅か3日後にそのおぞましい行為をさせられる。

その日、○川のマンションで相手の男がやってくるまでの時間に妻は何度もパニックを起こし、やっぱり無理と泣き叫ぶ。
帰りたいと懇願し、出口に向かう妻を○川は怒鳴りつけ、頬を何度も叩き、そして抱きしめながら懇願する。
妻はどうしても許してくれない○川の態度に、しだいに逃れられない運命を受け入れ無反応になって行く。
そして妻にとっての地獄が始まる。
男にキスをされ、体中を舐めまわされている時に妻は、麻痺しかかった頭でただ漠然と「気持ち悪い」と感じ、
ひたすら早くその時間が終わることだけを願っていた。
男が自分の体から離れ帰っていくと、急激に正気に戻っていった妻は、激しい吐き気に襲われる。
2枚目のDVDの続きは、ベッドから跳ね起きてトイレに駆け込み、何度も何度も何も出ないのに吐き続ける妻。
その妻の背中を必死でさすり続ける○川、○川に向き直り号泣しながら掴みかかる妻。
そんな妻を○川は抱きしめる。
妻の抵抗が弱まり、体から力が抜けると○川は妻を抱き上げベッドに運ぶ。
「大丈夫だよ○貴さん、俺が綺麗にしてあげるから」そう言うと○川は裸の妻の体中に丁寧にキスをする、何度も。
そしてその日○川は、妻が時間になり帰るまでの間、ずっと妻を抱いていてそして3度妻の中に射精する。

自分が犯してしまったとてつもなく罪深い行為に妻は恐れおののき、苦しむ。
もう自分は絶対に死ぬまで自分自身を許せないだろうと何度も絶望する妻。
そして自分にそこまでの代償を払わせた○川を憎むと同時に、一方で激しく執着する。
一度だけと言う○川の約束は、結局守られることはなかった。
しかし一度一線を越えてしまった妻にはもう拒む気力も無ければ、守らなければならない何も残ってはいなかった。
○川に求められるまま2度、3度と繰り返してゆく。
妻は言う「2回目からはやっぱり知らない男に体を弄られたり、舐めまわされたりするのは気持ち悪いけど、別に悲しくはならなかった」
「どうでもいいからこの男の人早く逝かないかな、なんて考えてた」
「あいつは私が他人に抱かれて感じてるところを見たかったみたいだけど、それは無理だよね、だって私何にも感じないもん」
「3回目の時にあいつが感じてるふりでいいからしてくれって頼むから、フェラとかしたけど…後からその映像私も見たけど、全然ダメだよね」
「男の人が終わって帰ると、あいつはすごく喜んで興奮して何回もしたがるから、なんかこれでいいのかななんて思ってた」

妻は、俺に○川との浮気が発覚した晩以降、日にちが経つにつれて急速に醒めて行く。
今となっては、最初から好きでもなんでもなかったあの男に振り回され、
なぜ言いなりにあんなことまでしたのか全くわからないと言う。
「どこが良かったんだろう?」と自分で何度も繰り返していた。
ただ○川には、ある種のワールドと言うか、強烈な自分の世界があり、一旦それに捕まると催眠術かなにかのように自分では抜け出せなくなるらしい。
妻は、知らないうちに○川の世界が世界の中心だと思い込まされていたみたいと言っている。
そして「なんて言うの?ストックホルム症候群だっけ?そんな感じだったような気もする」
しかし、○川の世界から引き戻されて、こちら側に帰ってきた途端に妻を再び強烈な現実が襲う。
俺が毎日苦しむ様子を見るたびに、自分がさせられた許されない不道徳な行為の記憶が蘇りその度に頭がどうにかなりそうだった。
そして俺に毎晩抱かれる度に、自分の忌まわしい記憶を消して欲しいと願ったそうだ
「わすれたい…」なんども妻は俺の腕の中で呟いていた。
それこそが妻の紛れも無い心情だった。
それでも何度か妻は俺に全てを打ち明けようと考えた。
しかし、やはり言えるはずもなかった。
妻は自分が永遠に封印したい忌まわしい事実が、○川の口から俺に伝わることを恐れた。
そして、俺を○川と接触させないように必死で二人で忘れようと説き伏せる。
俺とA田が○川からビデオを回収しようとしていることを知ると、いよいよ妻はいてもたってもいられなくなる。

妻は俺に隠して何度か○川に連絡をする。
始めの頃、○川は妻が俺に隠してそれまで通り自分との関係を続けるならDVDを渡すと言っていたらしい。
しかし妻は激しく拒否した上で、改めてDVDを渡せと強く迫る。
妻の頑なな態度に、妻の心が完全に自分から離れたことを悟った○川は、今度は自分の保身のためにDVDは渡せないと言い張る。
それどころか、もし俺が自分に何かすればDVDを公開すると脅しをかける。
そして切羽詰った妻はあの日、実家の父親に娘を預けると、もしも顔を合わせたらまたあの地獄に引き戻されるかもしれないという
言いようの無い恐怖を必死にこらえて、○川のマンションに向かう。
妻は早い段階からこの可能性を考えていたために、あえて○川から渡されていた部屋の鍵を返さなかった。
妻は○川の部屋に忍び込み、必死で置いてありそうな場所を探すが、結局見つけられずに落胆して部屋を後にする。

妻は俺から昨夜俺が○川にした仕打ちを聞くと冷たい表情で
「ザマミロ、あんなバカ死ねばいいのに」と言い放つ。
そして俺が○川の母親の写真を全て破ったと知ると
「…あいつやっと母親の亡霊から解放されるかもね」と呟いた。

ひとしきり話が終わると妻は、キッと挑戦的な目で俺を見据えて聞いた。
「…それでどうする?分かれる?あなたもう私のこと汚くて抱けないでしょ?」
俺は淡々とこう答えた
「いや、少し時間をかけて二人で考えよう」
気色ばんでいた妻は、明らかに拍子抜けした様子で、ただ短くわかったと答えると
何事も無かったかのように台所で朝食の支度を始めた。
もうすでにそんな時間になっていた。
俺がどうしてそう答えたのかと言うと、正直俺は疲れていた。
それにやらなければいけないことや、考えなくてはいけないことが沢山ある。
これ以上、目の前に座っている30過ぎのくたびれた女の話に付き合う気にはなれなかったから。
人間興味の持てない女の話に付き合うほど苦痛なことは無い。
まず○川の部屋から回収してきたDVDに映っている女全員の身元を割り出さないといけない。
A田に協力してもらって急いでやらなければ、ただ、一人だけ麻○と言う名の人妻の身元だけはすでにわかっている。
詳細な説明文と一緒に今日中にDVDを旦那に手渡してくることにする。

今日の投稿を最後にしたいと思います。
もう書けません。

その日俺は、朝、会社に病院に寄る旨の連絡を入れ、午前中は有給扱いにしてもらった。
俺は、娘を迎えの幼稚園バスに乗せて見送った後、その足で病院に向った。
マンションから10分ほどの場所にある、内科兼外科の50代の個人病院の先生は、俺の両手を見るなり
にやりとして「喧嘩かなにかですか?それにしても随分おやりになりましたね」と笑う。
俺は曖昧に言葉を濁し、愛想笑いで返す。
幸い骨折はしていなかったが、シップと包帯で両手をグルグル巻きにされた。

病院を後にすると俺は、市内中心部にある、あの、麻紀と言う名の人妻の夫が経営する工務店に向った。
予め病院からアポはとってある。
運良く直接当人が出てくれたので、俺がなるべく簡潔に事実関係を説明したうえで、証拠のDVDを渡したいと言うと、
麻紀のご主人は、絶句して激しく動揺している様子だったが、結果「…お待ちしています」と言ってくれた。

麻紀のご主人が経営する工務店は、自宅に併設された、茶色のタイル張りの鉄筋2階建。
1階が事務フロア兼簡易な応接、2階に社長室と会議室がある。
ガラス張りの扉を開けて中に入り、カウンターの前まで行くと、奥まで見渡せる。
事務机が6つ向き合うように配置され、その奥に一回り大きな机が置いてある。
一番手前の事務机に座っていた20代後半の女性が立ち上がり、カウンターに向って歩き出そうとしたところで、
奥の一回り大きな机に座っていた40代前半の男性が俺に気が付き、「伊藤さん、僕のお客さんだから」と声をかけ、
足早に俺のほうに向って歩いてきた。
事務室内には他に社員はいなかった。

俺は、麻紀の夫に2階の社長室に通された。
並ぶと麻紀の夫は俺より少し低い程度、身長180ちょうどぐらいか?精悍な感じで、某外務大臣に似た、少し濃い目の二枚目だ。
麻紀の夫は、俺に社長室のソファーを進めると、切羽詰まった様子で、詳しい話を聞きたがった。
俺は包み隠さず、自分が知っている全ての話をした上で、テーブルの上に、麻紀と書かれている6枚のDVDを置いた。
麻紀の夫は数秒間そのDVDを凝視し、一瞬目を泳がせた後に、俺の両手を指差して
「それは、これを回収した時にですか?」と聞いてきた。
俺が肯定すると、さらに「それで、その西川と言う男はどうなりました?」と続けた。
俺「がまだ生きていますよ…」そう答えると、一言「…分かりました」とだけ答え
しばし無言。
麻紀の夫に、今後のためと言われ、お互いの携帯番号を交換すると俺は、社長室を後にした。

時間が押してきたので、俺はそのまま駅に向い会社に出勤した。
勤務時間中に俺は、浅田の携帯に電話をし、夕方いつものファミレスで会う段取りをつけた。
浅田は俺の両手の包帯を見ると絶句していたが、さらに俺が前日からの出来事を余すことなく話し終えると、いよいよ黙りこんでしまった。
そして俺が3人の女の名前が書かれた、6枚のDVDを差し出し、何処の誰か特定して欲しいと言うと、考え込んでしまった。
DVDに映る女達の家庭を破壊することに浅田は大きな躊躇いを感じつも、西川のような男を許せないと言う正義感との間で揺れ動く。
結局浅田は、俺に強引に押し込まれるような形で、しぶしぶ引き受けた。

家に帰るといつものように、娘と妻が玄関で出迎えてくれる。
少し複雑な表情で俺を見つめる妻を、俺は空虚な瞳で眺めていた。
俺が一人で風呂に入り、寝室に行くと、先に休んでいた妻が、パジャマを脱ぎ全裸になって俺の腕の中に潜り込んできた。
緊張しているのか、心臓の鼓動が妻の体から伝わってきた。
妻は長い時間そうしてじっとしていた、しかしやがて何もしない俺を悲しげに見つめる。
そして、自分のことを見つめ返す俺の瞳に何も映っていないことに気がつくと、ゆっくりと俺の腕の中から抜け出して、背中を向ける。

今日は家族で動物園に行った、妻は早起きして一生懸命弁当をこさえた。
急な計画だったが、幸い好天に恵まれ暖かい一日だった。
娘は大はしゃぎだったが、クマやライオンなどの大型の動物には、やはりある種の恐怖を感じるようで、あまり近づこうとしなかった、
しかしキリンを見て喜び、カラフルな小動物たちを見てはうっとりしていた。
昼になると3人で芝生の上にレジャーマットを引いて弁当を食べた。
最後なので、娘が前から行きたがっていたディズニーランドに連れて行ってやれれば良かったのだが…
いかんせん遠すぎて、急きょ日帰りで出かけるわけにはいかなかった。
娘がそろそろ疲れてきたところで俺たちは、動物園を後にして今度は郊外にある大型のオモチャ屋に行った。
大喜びで店内をあっちこちしている娘が欲しがるオモチャを、俺は手当たり次第に買ってやった。
娘は帰りの車中の間ずっと、俺が運転する車の後部座席で、妻に膝枕されながら、獲得した戦利品の山に囲まれて幸せそうに眠っていた。

俺達家族が暮らすマンションが近付いてきた、俺は少し離れた裏道に車を止めた。
俺が運転席を降りると、眠っている娘を起こさないように、娘の頭をそっと膝から下ろし、ゆっくりと妻が後部座席から降りてきた。
妻と娘の衣類などの生活物資は、すでに2個のスーツケースに詰め込んで、車のトランクに乗せてある。
ベッドや服ダンスなどは、日曜に引っ越し便で送ることになっている。
色々考えた結果、これがベストな選択だと思う。
今、娘を妻から引き離すことは出来ない、あまりに可哀想だ。
俺が一緒にいなくても、妻の実家ならまだ祖父も健在だ。

妻は俺の前にやってくると、しばらく無言で俺を見つめる。
眉間に皺を寄せ、涙をこらえ、首を左右に2度小さく振る、ゆっくりと俺の腕の中に入ってくる。
そして曖昧に力無く抱きしめる俺の腕の中で、目を伏せ呟く。
「私は一番綺麗だった時間の全てをあなたにあげた、…忘れないで、あなたは私の物」
それだけ言うと妻は、さっと身をひるがえし車に乗り込んだ、そして二度と振り返ることなく、妻と娘を乗せた車はゆっくりと走り去る。
俺は誰もいなくなった俺達の家の残骸に戻ると、少しガランと殺風景な感じになった居間のダイニングテーブルの椅子に腰かけて、
長い時間ただボーっとしていた、どれぐらいの時間そうしていたのか分からない。
室内が夕闇に包まれてしっかりと暗くなったころに、突然の携帯の着信音で我に返った。

電話は浅田からだった。
西川は俺に襲われた日の翌日から、必死で自分の知り合いのスポクラ関係者に、手当たりしだいに電話をかけて、ようやく浅田に辿り着いた。
西川は浅田に自分と俺の間に入って欲しいと言っているそうだ。
「さっき西川から突然電話があってな、奴はおまえが納得できる形でなんとか和解したいと言っている」
「あいつはDVDを見たおまえが、自分が美貴さんにしたことの報復のために、今度こそ本気で殺しに来るんじゃないかと怯えているんだよ」
浅田に俺は「じゃあ5000万払えと伝えてくれ」と言って電話を切った。
もしも金が手に入ったら、全額のキャラクターの絵が書いてある娘の貯金通帳に入金してやろう。

それにしても“美貴”って誰だ?

なぜか、ダイニングテーブルの端の方、ハンカチの上に使用済みの妊娠検査薬が置いてある。

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先生・生徒・禁断 | 【2015-10-31(Sat) 21:00:00】 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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